二人の距離~やさしい愛にふれて~
翌朝、恭吾が目を覚ますと自分の腕の中で理花が眠っていた。

「えっ?理花?なんでこっちで寝てんだよ?」

驚いた恭吾は理花を揺り起こす。

「あっ、恭ちゃんおはよう。」

目を開けた理花は笑顔で恭吾に軽くキスをする。

「お前、なんでこっちに…?」

「さっき目が覚めておトイレ行ったから恭ちゃんにくっつきたくなって、つい…。あっ、お母さんが起きたらご飯どうぞって。」

恭吾はスマホを覗いて8時過ぎていることに気づいた。

その日は理花の家族と恭吾でゆっくり過ごした。夕食を済ませ、恭吾を駅まで送ると別れ際に理花は寂しさで涙が流れた。
そのまま理花は病院へ戻ったが、その日を境に更に明るくなり恭吾が来るときは外泊が当たり前になった。

二人で出かけることも当たり前になり、いつの間にか夜も同じ布団でくっついて寝るようになった。

一見すると理花は良い方向に進んでいると思われていた。
よく笑い、徐々に食事量も増え少食の女性くらいには食べれるようになった。
一時期は睡眠薬も飲まずに眠れるようになっていたが、夏が終わり蝉の声が聞こえなくなったころまた薬を飲まないと眠れなくなった。
不意に興奮する事もなくなったが、同じ時期に急に強い不安が襲ってくるようになり安定剤を飲むようになっていった。

理花はその事を恭吾に知られたくなくて、草野や家族に口止めしていた。
何も知らされていない恭吾は理花の心は順調に回復していると思っていた。
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