二人の距離~やさしい愛にふれて~
握手をしながら理花は深々と頭を下げた。

「そんな、固くならないで、頭を上げて、緊張しちゃうよねぇ。さぁ、今からご飯作るからもう少し待ってて。」

そう言うと茉莉はテキパキと買い物した物を直し3人分紅茶をいれてリビングに出て来た。
理花と恭吾に渡すと残りの1つは横の棚に飾られている写真の前に置き、何か話かけていた。

理花は写真に写っている人物が恭吾にそっくりだったから恭吾の写真だとばかり思っており何故話しかけているのか不思議に思っていた。

「もうすぐ真さんも帰ってくるから急がなきゃ。」

茉莉は独り言のようにそう言うとキッチンに急いで入って行った。

「あっ…」

理花はその背中を目で追い、ケーキを渡していないことに気づく。緊張しすぎて自分の横においたままにしていたのだ。

「私手伝ってくる。」

理花は恭吾にそう言うとケーキの箱を持ってキッチンへと後を追った。
恭吾はそんな理花の姿を見て以前よりも人間らしくて嬉しかった反面、1年会わなかったことやその間にどんな努力をして今の理花がいるのか、見守っていられなかったことが寂しかった。

「あの、これ…。いきなり来てしまってすみません。恭ちゃんがここのケーキ屋さん教えてくれて…」

「まぁ、気にしなくて良かったのに。ありがとう。嬉しいわ。そんなにおもてなし出来ないけど。」

茉莉は嬉しそうに受け取るとケーキを冷蔵庫へ直しご飯の準備を始めた。
理花はなかなか『手伝います』という一言が出ずに茉莉の背中を唇を噛んで見つめていた。
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