二人の距離~やさしい愛にふれて~
「…うん。・・・・・恭ちゃんも、どうぞ。」

理花は俯き気味で恭吾と目を合わさなかった。
そんな理花の目の前に行くと恭吾は肩にかけられていたタオルでまだ濡れている髪を拭く。

「ちゃんと乾かさないと風邪ひくぞ。」

「うん…乾かす。」

「ははっ、懐かしいな。お前の髪拭くの……髪、切ったんだな。可愛いよ。」

恭吾は寂しく笑うとタオルから手を離した。
その手を追いかけるように理花は顔を上げると、目からは涙が溢れだす。

「泣くなよ。」

恭吾は困った顔でガシガシと理花の頭を撫でると足早にバスルームに入って行く。
理花の涙を見て、恭吾も涙が込み上げてきていたのだ。

二人で過ごした日々は理花にとっては思い出したくない過去でも恭吾にとっては理花との大切な思い出だった。
自分の感情をどうしたらいいのかわからず痛む胸を掴んで座り込むと恭吾は溢れる涙を止められず声を殺して泣いた。

理花もまた、タオルで顔を覆い声が漏れないように泣いていた。
昨夜自分の気持ちを抑えきれず陽斗に泣きながら恭吾に会いたいと言ったことを思い出していた。

『恭吾にとっての幸せって理花の言うキレイな人と一緒にいることなのか?本当に理花といると不幸になるのか?』

そう陽斗に言われたが理花にはわからなかった。
理花にとっても二人で過ごした日々は辛いけど幸せな思い出だった。
どんなに消そうとしても自分の過去は消せなくて、自分を自分で更に汚した過去はなかったことにはならない。
それと同じで恭吾への想いも自分の中でなくなることはなかった。
< 202 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop