二人の距離~やさしい愛にふれて~
理花は本当に理花だったんだとか、長谷川って言うのかとか、両親がいたのに何であんな状態で放っておいたのかとか、九州に行くのかとか…いろいろなことが頭の中をぐるぐると回っていた。

そして思いたったように以前理花と一緒に行ったゲームセンターへ向かった。
理花が欲しいと言っていた黄色のたてがみの猫がいるクレーンゲームを探した。
見つけるとそのぬいぐるみが取れるまで無心になって何度もした。

取れたぬいぐるみを握りしめ、理花が入院している病院へと急いだ。
会えない事はわかっていた。だからこそこのぬいぐるみを渡したかったのだ。

以前来た記憶を辿って何とか集中治療室の前にたどり着いた。
まだここに理花がいるかはわからないが看護師にでも渡しておけば理花に渡して貰えると思ったのだ。

集中治療室の前のベンチにうなだれるように座った女性の前を通り過ぎ、カウンターへと向かった。

「あのっ、すみません、お願いがあるんですが…」

中の看護師さんらしき人に声をかける。

「どうしました?面会時間は過ぎてますよ?」

「はい、あのっ…このぬいぐるみを理花に、長谷川理花さんに渡して貰えないでしょうか?」

「えっ?長谷川さん?あなたのお名前を伺っても宜しいかしら?」

看護師の顔から笑顔が消え、怪訝そうにこちらを見ていた。
その時、ベンチに座っていた女性が勢いよくこちらへ来ると恭吾の服を掴んだ。

「うわっ」

「ねぇ、今理花って言った?なぜ理花の事しってるの?」

その女性の目からは絶えず涙が流れ出ており、酷く疲れきった顔をしていた。

「あ、あのっ、俺、芹沢恭吾と言います。もしかして…理花のおかあさ」

パンっ
恭吾が言い終わらないうちに左頬に鋭い痛みが走った。

「あなたね!あなたが理花をあんな目に合わせて!人殺し!変態!」
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