二人の距離~やさしい愛にふれて~
「そうだね。心の部分はこれからは地元に帰られてからゆっくり治療していくんだろうから精神科の先生にお任せしよう。」

「はい…。」

自分では力が及ばないと言われたようで恭吾は悔しくて涙が込み上げてきた。でも森永の前で泣くのはプライドが許さず必死でこらえる。

「さあ、そろそろあちらに戻ろうか。きっとお二人とも心配されてるだろうから。」

それからいくつか質問をされ、森永は席を立つと茉莉たちが待つ隣の部屋へと移動した。恭吾も少し遅れて森永の後を追った。

「お待たせしました。しっかりした息子さんですね。まだ若いのにきちんとした受け答えで感心いたしました。」

森永は真に向かって穏やかな笑顔で恭吾を褒めていた。

「恭吾さん、昨日預かったぬいぐるみは長谷川さんのお父さんに預けたよ。本人に渡すかはまだわからないが受け取ってはもらったから。あと、もうすぐ彼女に危害を加えた犯人が逮捕されます。もう手続きに入ったと連絡があったから時間の問題だと思う。」

「…はい。」

「君を疑ったことは業務上仕方のないことだったんだ。でも彼女かもしれないと勇気をもって知らせに来てくれたこと本当に感謝している。すぐに彼女の身元が特定できたことが迅速な犯人逮捕へ繋がったと思う。本当にありがとう。」

渡部は恭吾に向かって丁寧に頭を下げた。
恭吾は渡部の言葉に、今まで必死でこらえてきた涙が流れ出た。誰にも泣いている姿なんか見られたくないのに一度溢れると止めることはできなかった。
< 67 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop