二人の距離~やさしい愛にふれて~
そんな恭吾をみて真は隠すように抱きしめた。

「恭吾はよくやったよ。遊んでばかりいると思ってたのに一人の人を救おうと頑張ってたなんてな。いつの間にか子供じゃなくなってて驚いた。」

「そうよ、まだまだ子供だとばかり思ってたけど…人のことを考えてあげられるような子に育って母さんは本当にうれしい。」

茉莉も恭吾のそばに行き、優しく背中を撫でる。

「きっと時間はかかるけど理花さんも普通に生活できる日がくるよ。遠くからみんなで理花さんの回復を祈りましょう。」

「確か、昼食を済ませてから出発すると…。おっと、独り言です。」

渡部はわざとらしく大きな独り言を言う。それを聞いた森永は「こらっ」と小さく小突く真似をしただけだった。

それからすぐに警察署を出た。車に乗ると真は何も言わずに茉莉の職場である理花の入院している病院へと向かった。
時計は正午前を示しており、もう間に合わないかもしれないが焦る気持ちを抑えて真は安全運転に徹した。

病院に着くと茉莉が先導して救急車の搬入口に向かった。
そこには一台の救急車が停まっており、後ろのドアは閉まっていた。
そこへもう一台の救急車が到着した。しばらく離れたところで見ていると中から医者と看護師に連れられて車いすに乗った患者が出てきた。

「理花…。」

車いすに乗った患者は伸びきった髪を後ろにまとめ、顔は半分包帯で覆われていたが恭吾はその女性が理花だとわかった。
力なく前を見つめている理花の顔に感情はなかった。
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