二人の距離~やさしい愛にふれて~
理花のそばに駆け寄ろうとする恭吾の腕を真は掴んで静止した。

「渡部さんの親切を無駄にしてはいけない。きっと今恭吾が言っても騒ぎになるだけだ。」

真の言葉に恭吾は立ち止まり、拳を握った。
理花はすぐに救急車に運び込まれると、両親らしき人たちも頭を下げて乗り込んだ。
間もなくして理花を乗せた救急車は音もなく走り去った。

「よく耐えたな。きっと縁があればまた会えるよ。」

茉莉は心を痛めてる息子を目の前に何もしてあげられず涙を流した。

それからの恭吾は真面目に大学に通い、バイトで帰りが遅くなることはあっても遊びまわることはなくなった。
その代わり、よく由彰も一緒に真の部屋でお酒を飲む頻度は増えた。
そして、たまにこっそり理花のマンションに行くこともあった。
自分が何に対して未練があるのかわからず、理花のことが頭から離れなくなるとマンションに行き、倒されたままの棚を整理したり掃除をした。
そうすることで少しでも理花のことを知れたらと思っていたのだ。

いつかはこのマンションも解約されてこの部屋の物はすべて捨てられてしまうかもしれない。とわかってはいるものの恭吾はそれをやめなかった。
そして、整理した棚に並んでいる難しい本たちを開いて眺めた。
書き足されている自分では書けないようなきれいな字見つめて、

「理花が書いた字なんてみたことなかったな。」

と淋しく笑いながらつぶやいた。
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