二人の距離~やさしい愛にふれて~
恵子はいきなり興奮状態になった娘を前に動揺し、震える手でやっとナースコールを押した。

『どうされました?』

ナースコールのスピーカーから看護師の声がする。

「あのっ…先生、先生呼んで下さい。」

やっとの思いでそう伝え、振り返ると理花はフラフラした足取りで病室を出ようとしていた。

「理花?どこに行くの?待って、先生来るから。」

慌てて腕を掴んで止めようとすると理花は奇声を上げて暴れだした。
その声を聞きつけた看護師2名が理花に駆け寄り理花を静止させようと抑えた。
すぐに草野とカートをおした看護師も駆けつけ草野の指示で理花の肩に注射を打った。
まもなく理花は脱力したように大人しくなり、ベッドに寝かされるとウトウトと眠った。

恵子は眠った理花を見て安心したのかまた涙がこみ上げてきた。

「お騒がせしてすみませんでした。私が理花の前で泣いてしまったから…」

恵子は草野や看護師に深々と頭を下げる。

「長谷川さん、やめて下さい。彼女はまだまだ不安定な状態にあります。最近は少し感情が顔を出し始めたのでこれからこういうことが増えることも予想されます。」

「…はい。娘の嫌な記憶を消してあげれたらいいのに…代われるなら私が…」

「きっとそれを理花さんは望んでないと思いますよ。気長にそばで見守ってあげましょう?それと、少しお話があるのですがお時間いただけますか?」

「はい…。でも娘を一人にして大丈夫でしょうか?」
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