二人の距離~やさしい愛にふれて~
「…うん。俺さ、オヤジが母さんに向けてた気持ちと俺が理花に向けてる気持ちが一緒かまだわからないんだ。別に付き合ってたわけじゃないし…。正直、オヤジって言われても話をしたことないし…うまく言えないけど、オヤジの金は使えない…。」

俯き加減で恭吾がそう答えると茉莉はショックを受けたような顔をしていた。
そんな茉莉の背中を優しく真は撫でながら恭吾をまっすぐと見る。

「恭吾…仕方がないけどそんなこと言ったら茉莉さんも大吾も傷つくだろ?じゃあ今回は俺のお金を使おう。大吾のお金はまた将来就職したり、結婚したり、子供ができた時に使ってやってよ。」

「あぁ、ごめん…でもまだ中途半端な気持ちでどうなるかわからないんだ。1回きりでもう行かないかもしれないし、ずっと行くかもしれないし。」

恭吾も大吾の写真を見る。最近はあまり見ることがなかった写真を改めてみると最近自分が父親に似てきており、自分が『真』の子ではなく『大吾』の子なのだと自覚する。
茉莉はただ大吾の写真を見つめており、恭吾と真の声は耳に入っていなかった。

その日は元気のない茉莉のために恭吾と真で食事を作った。
茉莉は「美味しい」と食べていたが明らかに元気はなかった。自分の発言が原因だとわかっていた恭吾は胸が痛む…。
恭吾にとって大吾は写真の中にしかおらず、茉莉や真からいろいろと話は聞くものの自分の父親だという実感は持てないでいた。
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