冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
プロローグ
ベッドサイドに置かれたシェードランプに灯る淡い光が溢れ、琥珀色の瞳の中でゆらゆらと揺れている。

その繊細な睫毛に縁取られた切れ長の目元が、すっと細められた瞬間。
私の唇は、音もなく宗鷹(むねたか)さんの唇に塞がれていた。

予想だにしていなかった出来事に、思わず目を見開く。

私の枕に片腕をついていた彼は、口付けの余韻を残すようにゆっくりと私から離れると、こちらを真っ直ぐに見下ろした。

「……政略結婚に〝愛〟はいらない」

静寂に満ちた薄暗い寝室に、月のない夜を思わせる彼の冷たい声だけが響く。

「恋情、愛情、劣情などなくても、紙切れ一枚で〝夫婦〟にはなれる」

宗鷹さんは頬にかかった藍墨色の髪を、骨ばった男らしい手で煩わしげに搔き上げる。そして、薄く形の良い唇を微かに緩めた。

「そうだろう?」

あまりにも冷淡な表情と声音に、私はただ息を呑んだ。

唇から吸い込んだ空気が、胸の中を凍てつかせる。……彼に言われるまでもなく、何もかも理解していたはずなのに。
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