冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
誰よりも早く出社して受付のデスク周りをすべて拭き上げたあと、エントランスに入って一番最初に目につく場所に設置されている大きな花器に、季節の花々に活けている最中。
私の背の向こう側から、そんな陰口が聞こえてきた。

『あの、おはようございます』

お飾りになりたくて就職したわけじゃないんです。
私も一生懸命、精一杯頑張りますので、先輩達の仲間にしてください。

そんな気持ちを込めて、私は後ろを振り帰ってから笑顔を咲かせて挨拶する。

けれども、先輩方から返ってきたのは朝の挨拶ではなく、私など目に入らぬとばかりの無視と、無言だった。


その後もどうすれば改善できるのか、円満に仲良くできるのか、必死に仕事をしながら考えたけれども全然ダメで。
溝を埋めることも、こうなっている原因を探って誤解を解くこともできなかった。

その代わりに学んだことは、自分をとにかく信頼して頑張るという自己防衛の方法。
先輩方の言葉に惑わされずに自分自身の見聞を信じて、真摯に真心を返す。そうすれば自ずと、仕事が上手くいき始めた。

会社の顔としての丁寧な接客と好印象が、その後の商談やプロジェクトの成功を後押しし始めているような気配も感じる。
入社当初の目標通り、櫻衣商事の経営状況をよくする歯車の一部になれた気がして、私はひとり頬を緩めていた。
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