冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
……だが。何があったかは知らないが、見かけるたびにやつれていく彼女の姿は痛ましい。
幼い頃から体の弱い彼女が顔色を悪くしてまで仕事を続ける理由は、やはり櫻衣商事の未来を憂いているからだろう。
いつ限界を迎えてもおかしくないような様子だというのに。それでも仕事を辞めないのは、やはり俺との結婚が嫌だからか。
婚姻届はただの紙切れにすぎないんだ。君の心までは絶対に奪わない。
だからどうか――君に早く、俺の手を取って欲しかった。
……そう思って、いたんだがな。
実際に君の手を取ってみて、俺はおかしくなってしまったらしい。
二十五歳の誕生日を迎えた澪が湊征君に連れられて家を出たと広海さんから聞いたのは、三連休明けの月曜日。時刻は九時を回った頃だった。
政略結婚の件だけでなくM&Aについても澪には知らせておらず、伝えたところ強いショックを与えてしまったと聞いて、溜息を禁じ得ない。
『一人暮らしを始める気らしい』と教えられた住所は、なんと俺の自宅の隣だった。
幼い頃から体の弱い彼女が顔色を悪くしてまで仕事を続ける理由は、やはり櫻衣商事の未来を憂いているからだろう。
いつ限界を迎えてもおかしくないような様子だというのに。それでも仕事を辞めないのは、やはり俺との結婚が嫌だからか。
婚姻届はただの紙切れにすぎないんだ。君の心までは絶対に奪わない。
だからどうか――君に早く、俺の手を取って欲しかった。
……そう思って、いたんだがな。
実際に君の手を取ってみて、俺はおかしくなってしまったらしい。
二十五歳の誕生日を迎えた澪が湊征君に連れられて家を出たと広海さんから聞いたのは、三連休明けの月曜日。時刻は九時を回った頃だった。
政略結婚の件だけでなくM&Aについても澪には知らせておらず、伝えたところ強いショックを与えてしまったと聞いて、溜息を禁じ得ない。
『一人暮らしを始める気らしい』と教えられた住所は、なんと俺の自宅の隣だった。