冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
なんでも、鶴山さんが湊征君に贈与した物件だそうだ。
隣には人が住んでいたのかと驚くよりも早く真っ先に頭に浮かんだのは、鶴山さんの好々爺とした微笑みだった。

まったく、粋な計らいのつもりだろうか。湊征君とは犬猿の仲だし、澪にはこうして嫌われているというのに。

……それにしても、ずっと箱入りで育ってきた澪が一人暮らしなんてできるのだろうか? お義母さまの徹底ぶりで、家事もろくにできないはずだ。

体調だって心配だ。あんなに張り詰めたような空気を纏っていた彼女の身に何かあったらと想うと、気が気ではなかった。

とにかく明日にでも迎えに行こう。

そう思っていた矢先、彼女が唐突に訪ねてきて……いや、目の前で倒れて、正直血の気が引いた。

彼女を自由にしたくて二年間も待ったというのに、これほど疲弊していたら埒が明かない。
だというのに、まさか三年目も待てと? いい加減にしてくれ。

俺は激情と庇護欲の狭間で、強引に唇を奪う。
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