冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
そうでなくても私のことが嫌いなのに、という言葉を咄嗟に飲み込む。
彼はそんな私の真意を探るようにじっと見つめると、その艶やかな琥珀色の瞳で私の視線を搦めとる。

そうして私に、いや、彼自身に固く誓うように私の手を掬い上げ、指先にキスを落とした。

「俺が君を無理やり抱くんじゃないかと警戒しているのなら、キス以外は何もしないと誓おう。だから君は安心して、ただ俺の妻として健やかであってくれ」

「……わかりました」

戸籍上でも両家から見ても正真正銘の新婚夫婦なので、いくら愛がないといえども跡継ぎ問題からは逃れられない。

菊永家の祖父母にも『二十五歳になったら嫁に来るという約束を、誕生日を迎えて数日後に守っていただけて嬉しい限りです。老い先短い私たちに、早うひ孫の顔を見せてくださいな』と、再三言い含められている。

なので、妻として義務を果たす覚悟は少なからずできている、と思う。
いつか、その……彼に抱かれる日が来るのは、菊永家の嫁として当然なのだから。
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