冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
けれども、それとこれとは話が別だ。
義務は形式的に行う必要最低限の行為だが、やっぱり宗鷹さんを抱きしめて眠るのは、恥ずかしすぎて心臓が爆発しそうになる。

そんなわけで〝抱き枕攻防戦〟は飽きもせず毎晩繰り広げられる。

だからなのか、寝る前の宗鷹さんは大抵と言って良いほど不機嫌そうな顔や、何かを我慢しているような苦しげな表情しか見せてくれないわけだけれど……。
こうして眠っている顔は、少しだけ幼さがあって可愛い。

初めて目撃する夫の眠る姿をこっそり盗み見ながら、甘やかさすら感じられる美青年の(かんばせ)に、思わずほうっと見惚れてしまう。

いつもは艶やかに整えられている藍墨色の髪も、今はサラサラと頬に流れていて、鋭い目元には長い睫毛が影を落としている。

彼の隙のない美貌にある、誰もを惑わせるような妖艶さは鳴りを潜めているが、爽やかな色気が凄まじい。

それにしても……。
目覚ましを使わずに起きられるようになったのは、いつぶりだろうか。
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