冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
こんな風にわずかに差し込む太陽のやわらかな光でに微睡みながら、不安や焦燥に駆られずに目覚められる日が来るなんて、思ってもいなかった。

宗鷹さんと結婚してから、二十一日目の朝。
旦那様という抱き枕のおかげで、私の睡眠不足や体調はすっかり回復していた。

自らの唸り声で起きるパターンも全くない。
婚姻届にサインしたその夜から毎日続いている習慣に、変わらず酷く戸惑い続けていたが、人肌効果は絶大だったようだ。

婚姻届といえば、証人欄には私の両親の名前が添えられて提出された。

勢いよく飛び出してきた実家だったが、帰宅した私をお母さまは『おかえりなさい』とハグで迎え入れてくれ、お父さまは『よく戻った』と目尻に涙を溜めながら歓迎してくれた。

飛び出してごめんなさいと謝罪してから宗鷹さんとの縁談を受ける旨を伝えると、ふたりは手を取り合って喜ぶ。
そこには政略結婚によって櫻衣商事の経営破綻が食い止められるとか、そういう打算的な喜びではなく、完全なる祝福しかなかったように思う。
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