冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
宗鷹さんは愛おしさと切なさが入り混じった表情で、私の頬に手を伸ばす。

「そのはずだったのに――俺はいつの間にか、君に恋をしていたらしい」

至極大切なものを見つめる、あたたかな琥珀色に胸がきゅうっと締め付けられる。

「君の祖父は俺にとって大事な恩人で、そんな人の恩人の大切な孫娘に恋情を寄せ、劣情を抱いてしまった自分が許せなかった。
俺は君に触れない方が良い。触れたら最後……己の中に燻るこの激情が、君のすべてを奪ってしまうように思えて、怖かったんだ」

それからというもの、彼は私との接触を避け、極力関わらないようにしようと決めていたそうだ。

恋心を抱いていたからこそ避けていたとは、思いもしなかったけど……。
そっかと、心の中で安堵のため息をつく。

「良かった。私は宗鷹さんに嫌われていたから、素っ気なくされていたわけじゃなかったんですね」

「当たり前だろう。君が就職する頃には、確実に君が好きだった」
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