冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
暗号を散りばめたのは、きっと祖父が宗鷹さんを信頼していたから。
彼が、恩人の会社と櫻衣家を救いたい気持ちで政略結婚を持ちかけざるを得ない状況になると、予想していたのだろう。

結果的に宗鷹さんは櫻衣商事の未来を憂い、父にM&Aと政略結婚を持ちかけた。

「君を政略結婚せざるを得ない状況に陥としてからは、後悔と葛藤の日々だった。君を待ち続けるだけの二年の間は、本当に好きな男と結婚して幸せに生きてくれと願う反面……心の中は、醜い嫉妬や独占欲に塗れて、生きた心地などしなかった」

彼は整髪料で艶やかに整えられていた前髪を、片手でくしゃりと抑える。

政略結婚をして、最終的には恩人の残した大切な遺産を利用しなければならないM&Aの方法にも、筆舌し難い葛藤があったらしい。

「こんな強引に迫った無理やりな結婚だ、最初から君の心までは奪わないつもりだった。
櫻衣商事のために仕方なく俺と結婚した君の体を菊永家に縛りつけはすれど、心で誰を思うかは自由だ。だから――政略結婚に愛はいらないと、言ったんだ」

だがそれも君を傷つける結果になったな、と彼は申し訳なさそうに眉を下げる。
彼の誠実すぎる姿勢に、冷たくされた件に関して怒る気になどなれなかった。
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