冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
櫻衣商事は、明治時代に父方の曽祖父が創業した。

最初は九州にあった小さな繊維メーカーだったが、次第に大きくなり、東京都に本社を移してからは衣料品を取り扱うように。

昭和に入って代表取締役が祖父に代替わりした頃には、自社のオリジナルブランドを次々に立ち上げ、大手アパレルメーカーへと成長を遂げた。

そんな父の会社がすでに成長を止め、じわじわと右肩下がりの売上高に推移していたのを知ったのは、小学校からエスカレーター式で進学した女子大在学中に、企業研究をしていた時。

櫻衣家の令嬢として蝶よ花よと育てられ、与えられる幸せな生活を一片の疑問も持たずに享受していた私には、衝撃的な事実だった。

当時の私は大学卒業後はアパレル関係の他社へ就職して、百貨店などで販売経験を積む予定を立てていた。

衣服に対する社会の風潮や考え方は刻々と変化していく。
その変化を先読みする勘を身につけるためには、毎日お客様の声を聞いて密に接してこそだと考えていたからだ。

しかし、櫻衣商事に忍び寄る不穏な足音を止めるためには、急がば回れなんて言っていられないだろう。

思い起こせば、父は世田谷にある邸宅だけを残して、いくつか所持していた不動産をすべて売り払っていた。
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