冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
しかし実際に経営破綻してしまってからでは、買収先がすぐ決まらない会社も多い。

「そこで、今すぐに吸収合併契約を締結するわけではないが、何かしらの明確な契りを結ぶことで将来的にそれを約束する、と提案した。それが――君と俺との結婚だ」

菊永ホールディングスの取締役副社長である宗鷹さんの魅力的な提案に、病床の祖父も、そして現代表取締役である父も、是と応じたというわけか。

「つまり……互いの家が婚姻関係を結ぶのは、将来的に事業提携を目指すため。私は、ただの保険というわけですね」

「そうなるな。櫻衣商事は経営改革次第で、再び日本に愛される会社に生まれ変われる。俺としても、戦後の衣料文化を築き上げてきた会社の倒産は避けたい」

ぎゅうっと切なく胸が締め付けられる。

今にしてようやく、祖父の遺言で私が十億円の株式を相続した理由がわかった。
それから、湊征が昨日お父さまに言い放った、『政略結婚』『M&A』『保身のための道具』という単語の意味も。

私が所有する十億円の株式が宗鷹さん側に渡れば、父が譲渡予定の株式と合わせて、発行済み株式のうちの二十パーセントが菊永ホールディングスのものになる。
菊永ホールディングスはすぐにでも筆頭株主に上り詰め、経営権を取得できるというわけだ。

最後は仕上げに一般公開株を必要な分だけ市場外で公開買い付けして、会社を買収する。まさに完璧なシナリオだった。
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