冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
私は万感の思いを込めて、丁寧に頭を下げた。

「……この度は助けていただき、誠にありがとうございました。それじゃあ、一応これで失礼しますね」

ゆっくりとした所作で、借りていたベッドから降りるため両足に力をいれる。
本当のところ、今すぐにでもこの場から脱兎のごとく逃げ出したい。

表面上では粛々と婚姻届にサインをしたが、心の中は色々な感情が綯い交ぜになって、正直に言えば混乱している。

それに、宗鷹さんの崇高な美貌が私を見下ろし、冷徹な視線に隠された密やかに滾る激情を向けられるたび……。
またあんな風に激しく唇を奪われるんじゃないかと不謹慎にもドキドキして、どうにかなってしまいそうなのだ。

私をM&Aに必要な駒としか見ていない男性の前で、そんな気持ちになるなんて悔しくてたまらない。
自分でも自分が理解できなくて、パニックになりそうだった。

その気持ちが決して彼に悟られぬよう、私はできるだけ平静を装って「お邪魔しました」と立ち上がろうとする。が、しかし。

「あ、あれ?」

下肢に力を込めて何度立ち上がろうとしてみても、足が痺れているのか感覚がなく、上手く動いてくれない。
どうやら先ほどの強引なキスで、腰が抜けてしまったらしい。
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