冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
……うわああっ。キスしただけで腰が抜けるなんて、恋愛経験ゼロですって全身で伝えてるみたいで、はっ恥かし、過ぎる……っ。
お願いだから、早く動いて……!

脳の命令に従わない体は小さく震えるばかりで、ちっとも思い通りにならない。
私はおろおろとしながら、助けを求めるために元凶である宗鷹さんを涙目で見上げる。

彼の琥珀色の双眸に浮かんでいた激情は、いつの間にか鳴りを潜めている。
そして今はどうしてか、毒気の抜けたような表情で、慌てふためく私の姿をため息混じりに見下ろしていた。

「そうやって震えていると、まさに狼から逃げ遅れた兎だな」

……ごもっともです。
私はいよいよ羞恥心で爆発しそうになり、両手で掴んだ毛布をぎゅっと手繰り寄せて、赤面しているであろう顔を隠す。

「先ほども話したが、明日には婚姻届を出しに行く。どちらにせよ、君は今夜ここで寝てくれ」

宗鷹さんは平然とそう言い放った。

「ええっ!? そんなっ、隣ですし今夜はとりあえず帰ります」

彼と結婚するほかに櫻衣商事を経営破綻させない方法がないのは、すでに重々すぎるほど理解している。
だけど、それとこれとは話が別だ。

宗鷹さんは眉根を寄せて、いかにも不機嫌そうな顔になる。
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