冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
家事に関しても、住み込みだった家政婦さんが退職したのを機に、新しい方には時間を決めて通いで勤務してもらっている。

長年櫻衣家に仕えてくれていた使用人の方々も、時期を同じくして屋敷仕えを解いていた。
現在は皆、櫻衣商事で働いていると聞いている。

お父さまは、『何事も栄枯盛衰。そろそろ真剣に老後の心配をしないとな』なんておどけていたけれど、もしかしたら数字よりも、もっと事態は深刻なのかもしれない。

なぜここに来るまでに、櫻衣家の危機にいち早く気がつけなかったのだろうか。
……一刻も早くお父さまの会社に入って、将来に備えて修行しなくちゃ。

私は逸る気持ちを抑えられぬまま、そう決心した。


そんな、家庭内で行われる家族の会話の中だけではまったく気づけなかった不穏な足音を、ひとつ年下の弟は私より随分先に察知していたらしい。

彼は海外の名門大学在学中に自身の会社を設立すると、自らがデザイナーとなり、アパレルブランドを立ち上げていた。

もともとセンスの塊だった弟、櫻衣湊征(みなと)の立ち上げたブランドは、海外セレブに絶大な支持を得て、あっという間にその地位を確立していった。

『海外で有名ブランドとして成長させた〝amnis(アムニス)〟とライセンス契約を締結すれば、櫻衣商事の業績回復を必ず狙えるはずだ』
< 5 / 162 >

この作品をシェア

pagetop