冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
「決定事項だ。残念だが、君の意見は聞いていない」

冷たい言葉とは反対に、彼は優しい手つきで上半身を起こしていた私の背中に手を回す。
そして再び、広いベッドの上に寝かしつけた。

「でも、あの、門限もありますし」

「門限? ひとり暮らしなのにか?」

彼に聞き返されたところで、確かにそうだと気がつく。
今の私はひとり暮らし中なんだから、両親が定めた門限とは関係ない世界に生きているのかもしれない。

だとしても、男の人の家に泊まるなんて、お父さまとお母さまが許してくれるだろうか?
宗鷹さんは政略結婚の相手だし、もしかしたら例外だったりする?

恋人がいたためしがなく両親に相応の対応をされた経験が無いので、さっぱりわからない。

「ちなみに何時が門限なんだ」

「十九時半です、けど……」

私が言い淀んでいると、ベッドサイドに立っていた宗鷹さんがそっと私の頭に手を伸ばした。

「二十五歳にもなって、困った箱入り令嬢だな。ご両親には電話を入れておく。いいから、君は大人しくしていろ」

まるで優しく慈しむように、彼の大きな手のひらが私の頭を撫でる。

弟以外の男性に頭を撫でられた経験などないため、羞恥心で頬が熱を持つ。
弟から撫でられるのとは、温度も、力加減も、手のひらの大きさも、指の長さも、何もかもが違う感覚。
そう感じた瞬間、胸の奥できゅんと音がした。
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