冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
何年先をも見据えた弟の戦略を聞き、日常にある幸せを疑わぬただの女子大生だった私は、目から鱗が落ちたものだ。

だが世間知らずで内向的な私には、自らのブランドを立ち上げ成長させるまでの手腕も、行動力もない。

けれども、少しでもいいから、櫻衣商事を内側で支え続けている父と外側から支えようとしている弟の力になりたいという気持ちは、日に日に募っていくばかりだった。


『私も櫻衣商事のために働きたい。たくさん経験を積んで、全力で後方支援できるような人材になるから、お父さまを手伝わせてください』

いよいよ就職活動が始まる段階になったある日、私は両親に頭を下げた。
というのも、両親はそもそも私の就職に反対していたからだ。

お父さまの右腕を目指します! なんて、力量も度胸もないため言えないが、一社員として櫻衣商事の将来を真剣に考え、誰よりも身を粉にして働く自信はあった。

しかし、私の言葉に両親は揃って顔色を曇らせた。

『澪。お前は、湊征のように仕事に就かなくていい。櫻衣商事にも就職しなくていいんだ。
櫻衣家の女性は、学業を修めたらお祖母さまやお母さまと一緒に花嫁修行をして、嫁ぐまでの家族で過ごす時間を大切にする。
今までも皆、そうやって過ごしてきた。お前を可愛がってくれている徳香(のりか)叔母さまもだ』
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