冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
『そうよ。澪ちゃんがお仕事なんて……心配で仕方ないわ。幼い頃は体もすごく弱かったでしょう? ここで無理をしたら、どうなってしまうかわからないわ』

心配する母は、不安な表情を浮かべて首を横に振る。

私は生まれつき免疫力が弱かったせいで幼い頃から風邪を拗らせやすく、中学生くらいまではよく学校を休んでいた。
今でも疲れが溜まると体調不良になるが、以前よりはずっと体力もあり元気だと思う。

『最近は風邪をひいても長引かなくなってきたし、体調が思わしくない兆しがあれば予防もするから、安心して』

『そうだけど。でもね、社会の荒波に自ら飛び込まなくていいのよ? あなたはちょっとぼんやりしていて抜けているところがあるし、他人を疑うことも知らないし……。もちろん、そこが長所だとお母さまは思うけれど』

私の言葉を遮った母は、そっと私の手を取って両手で握りこんだ。

『ひとりで出歩くのだって、危険だわ。体調だけじゃなくて、方向音痴もあるんだから』

『それは……』

地図も読めないほどの酷い方向音痴である件も指摘され、言い淀む。
方向音痴は就職に関係ないと思うのだが、どうやら私が何を言っても、就職断固反対の意思はふたり揃って変わらないらしい。
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