冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
そろりとひそやかに上目遣いで彼を窺うと、私の身を焦がすかのように熱い熱を帯びた双眸と視線がかち合った。

その瞬間。彼はまるで狼のように、性急に私を組み敷く。

目の前に晒された宗鷹さんの尖った喉仏が、ごくりと音もなく上下する。
彼は行き場のない感情を我慢するかのように顔をゆがめると、苦しげに眉根を寄せた。

「……澪」

掠れた甘い声が鼓膜を震わせる。
名前を呼ばれただけなのに、不思議と私の頬や体はいとも簡単に熱く火照っていき、視線は彼に釘付けになった。

寝室に揺蕩う空気は、いつの間にか夜の帳に濡れている。
シェードランプに灯る淡い光が溢れ、彼の琥珀色の瞳の中でゆらゆらと揺れているのが見えた。

その繊細な睫毛に縁取られた切れ長の目元が、すっと細められた瞬間。私の唇は、音もなく宗鷹さんの唇に塞がれていた。

息もつけぬ深いキスをするためか、彼の右手は私の後頭部に這わされ、左手は腰を強く抱き寄せられる。
予想だにしていなかった出来事に、私は思わず目を見開いた。
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