冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
秘書室に配属されなかったのは、櫻衣商事が起用している秘書が男性ばかりだからだろう。
結婚相手を探すためとは言え、筋金入りの女子校育ちである娘が秘書室に馴染めないことは、予測済みだったらしい。

そんなこんなで、就職活動で愛用していたブラックのリクルートスーツは役目を終え、入社一日目には支給された受付用の制服をまとうことになった。

櫻衣商事の婦人服ブランドのデザイナーが手がけたエレガントで可愛い膝丈ワンピースはお洒落だと評判だったので、ほんの少しだけ心が弾む。

白い手袋で覆われた手で首元に大判のスカーフを巻いてから、更衣室の鏡に全身を映すと、やっと夢にまで見た櫻衣商事の〝内側の人間〟になれたのだと実感が湧いた。

けれど……残念ながらここでは経営に少しも携われない。

ふとそんな言葉が脳裏を過ぎったが、すぐさま思考を打ち消すようにふるふると首を左右に振る。

ううん。これもきっと何かのチャンス。受付係だからこそできる仕事を考えなくちゃ。
受付は会社の顔だもの。最初の印象や丁寧な接客が、きっと絶対にその後の商談やプロジェクトの成功を後押しできるはずだわ。

そうやってしっかり心を切り替えた私は、櫻衣商事本社ビルの受付として誠心誠意、奮闘する決意をしたのだった。
< 9 / 162 >

この作品をシェア

pagetop