冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
きっと、私がなにかおかしな態度を取ってしまったのかもしれない。恥ずかしくなって、私は咄嗟に逃げるように顔を逸らした。

しかしイジワルな指先は、何かを確かめるかのごとくそのまま腹部を滑り、腰の辺りまで伸びる。
氷のように冷たい指先で触れられているのに、なぜだか、触れられた部分が熱い。

「……君の心までは奪わない。だから、安心して眠るといい」

そう言うと、彼は壊れ物を扱うような手つきで、ベッドの上に横たわる私を優しく抱き寄せた。




涙となって零れることすら許されなかった感情が、心の奥底の陽の当たらぬ場所で密やかに芽生えた淡い蕾を夜露で濡らしていく。


……どうしてだろう。

今夜は、ひとりきりで眠る時よりも胸が痛くて、切なくて、寂しい。


ランプが消えた暗闇の中、私は彼に悟られぬよう、きゅっと指先を握りこんだ手で胸を押さえる。
もしかして私は――宗鷹さんに……叶わぬ恋を、しはじめているのかもしれない。
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