冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす


終戦直後の職に就けなかった大勢の人々に堅実な職場と仕事を与え、多くの命を養ってきた老舗企業、櫻衣商事。
昭和から平成に元号が変わるその時代、彼らは確かに日本の衣料業界を牽引する柱だった。

生地の生産から縫製まですべての工程を日本で行う、徹底的な日本製へのこだわり。その姿勢は顧客に対し安心や信頼だけでなく、満足感を与える。

バブル期には『アベック』がこぞって櫻衣商事の衣服を着て、ハイキングやキャンプなどを楽しんでいたと聞く。
特に自社ブランドであるファミリーカジュアルブランドの人気ぶりは絶大で、菊永ホールディングスと並んで三大アパレルメーカーと呼ばれるまでに成長させた。

本来ならば今でも変わらず、日本人に愛されているはずの櫻衣商事の経営に陰りが出始めたのは、インターネットによるネットショッピングが一般に普及し始めてからだろう。

櫻衣商事の販売網は百貨店が主体だ。
自社ブランドごとの販促WEBサイトはあるが、ネットショッピングは無い。

それはインターネットのない時代を生きた前会長である櫻衣鶴山(かくざん)の強い要望が、現代表取締役社長の櫻衣広海(ひろみ)に受け継がれているからでもある。
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