冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
両親は始まりこそ政略結婚だったが、釣書の時点で互いに一目惚れをしており、実に幸せな結婚だったらしい。
そんな優しい母の意識が混濁し始めたのは、五歳の夏だった。
『……お母様、どうか元気になって』
『宗鷹』
母の手を握ろうとする俺の手を、横から祖母は払い落とす。
『駄目ですよ。あなたの手は氷のように冷たいんだから。お母様の命を吸い取ります』
『……はい』
『宗鷹は花瓶に活けてあるお花の世話をしていなさい。お母様の大好きな菊を、元気にするのですよ』
祖母は微笑みながら諭すように言って、俺に花瓶を手渡した。
子供体温などなく、命を吸い取るほど氷のように冷たい手を持つ俺は、一度きゅっと手のひらを握りしめてから、しっかりと花瓶を受け取る。
白い大輪の洋菊は母が大好きな花だ。
母がそれを好む理由は、菊永家に婿入りした父が母に贈った初めてのプレゼントだったから。
菊永本家に代々伝わる『病床の殿様に白菊を献上し快癒した際に賜った』という苗字の逸話を聞いた父が、母が健康で朗らかに過ごせるようにと願い、真実の愛を誓って贈ったのだと聞いている。
そんな優しい母の意識が混濁し始めたのは、五歳の夏だった。
『……お母様、どうか元気になって』
『宗鷹』
母の手を握ろうとする俺の手を、横から祖母は払い落とす。
『駄目ですよ。あなたの手は氷のように冷たいんだから。お母様の命を吸い取ります』
『……はい』
『宗鷹は花瓶に活けてあるお花の世話をしていなさい。お母様の大好きな菊を、元気にするのですよ』
祖母は微笑みながら諭すように言って、俺に花瓶を手渡した。
子供体温などなく、命を吸い取るほど氷のように冷たい手を持つ俺は、一度きゅっと手のひらを握りしめてから、しっかりと花瓶を受け取る。
白い大輪の洋菊は母が大好きな花だ。
母がそれを好む理由は、菊永家に婿入りした父が母に贈った初めてのプレゼントだったから。
菊永本家に代々伝わる『病床の殿様に白菊を献上し快癒した際に賜った』という苗字の逸話を聞いた父が、母が健康で朗らかに過ごせるようにと願い、真実の愛を誓って贈ったのだと聞いている。