冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
そんな理由から、祖母は病床に飾られた洋菊があまり好きではない。
そもそも名家の次男と言えど、異国の血が混じる後妻の息子を婿養子に出された祖父母は、『世間から菊永家の娘を軽んじられている』と憤っており、父のことが嫌いなのだ。
季節は移ろい、その年の秋を迎えた頃。母は穏やかに生涯を閉じた。
菊永本家の屋敷は深い悲しみに包まれ、誰も息をしていないようだった。
それもそのはず。俺の母は、菊永家長男である祖父が溺愛する一人娘。
彼女がいなくなり、家には政略結婚で渋々菊永家に迎え入れた婿養子と、そんな父親似の孫しかいない現実に、祖父母は堪えきれなかったらしい。
俺の世話をするのは使用人だけ。交わされる会話は当たり障りのないもので、誰も俺の中にあるぽっかりと空いた暗闇に気づいてはくれない。
彼らは常に〝奥様〟である祖母の機嫌を窺っており、〝坊っちゃま〟はしばしば機嫌の悪い祖母を喜ばせるための道具のように扱われる。
互いに助け合える兄弟がいれば少しは違ったのだろうが、母は生まれつき体が弱かったこともあり『出産は一度きり』と祖父母によって決められていたため、独りぼっちだ。
幼い自分の悲しみに寄り添い、大丈夫と慰めてくれる存在はいない。
俺は日々、ひとりで大人になっていかなければいけない恐怖と戦っていた。
そもそも名家の次男と言えど、異国の血が混じる後妻の息子を婿養子に出された祖父母は、『世間から菊永家の娘を軽んじられている』と憤っており、父のことが嫌いなのだ。
季節は移ろい、その年の秋を迎えた頃。母は穏やかに生涯を閉じた。
菊永本家の屋敷は深い悲しみに包まれ、誰も息をしていないようだった。
それもそのはず。俺の母は、菊永家長男である祖父が溺愛する一人娘。
彼女がいなくなり、家には政略結婚で渋々菊永家に迎え入れた婿養子と、そんな父親似の孫しかいない現実に、祖父母は堪えきれなかったらしい。
俺の世話をするのは使用人だけ。交わされる会話は当たり障りのないもので、誰も俺の中にあるぽっかりと空いた暗闇に気づいてはくれない。
彼らは常に〝奥様〟である祖母の機嫌を窺っており、〝坊っちゃま〟はしばしば機嫌の悪い祖母を喜ばせるための道具のように扱われる。
互いに助け合える兄弟がいれば少しは違ったのだろうが、母は生まれつき体が弱かったこともあり『出産は一度きり』と祖父母によって決められていたため、独りぼっちだ。
幼い自分の悲しみに寄り添い、大丈夫と慰めてくれる存在はいない。
俺は日々、ひとりで大人になっていかなければいけない恐怖と戦っていた。