続・ダメ男依存症候群 ~二人で一つの愛のカタチ~
「何やってんだてめえは!」
「いで!」
突然違う声と『ゴンッ!』という鈍い音が聞こえて、旬の手が奈津美から離れた。
「いってー……先輩、何するんですかー! 今思いっきりグーで殴りましたよね」
旬が頭を摩りながら後ろを振り返る。
そこには、旬とは違う男性店員がいた。名札を見ると、大川と書かれていた。
「何じゃねえ! 仕事サボって客に手ぇだすんじゃねえよ!」
大川は拳を握りしめ、鬼のような形相で旬に怒鳴る。
「客じゃないです! いや、客ですけど! でも俺の彼女なんです!」
「彼女?」
大川はちらりと奈津美の方に目を向けた。
「申し訳ありません。折角来て頂いたのに迷惑かけて……」
大川は奈津美に対しては店員として旬の行動を詫びる。
「い……いえ……こっちこそすみません」
何となく奈津美も謝ってしまう。
「別にいいじゃないですかー。彼女なんだし」
旬は口を尖らせて大川に言う。
「彼女だろうがなんだろうが客に変な誤解招くようなことするな! 仕事中だろ! 店長に言って給料減らすようにぞ」
「あっ……それだけはマジで勘弁してください! ホント、軽はずみな行動だったって反省しますから!」
旬は必死になって大川にすがる。
「……ったく。いいから席に案内しろよ。二番開いたから」
大川は呆れた様子で客席を顎で杓った。
「はい! じゃ、ナツ、カオルさん。こっちにどうぞ」
旬は笑顔で二人を客席の方に連れて行く。
「……旬、ダメじゃない。バイト先の人に迷惑かけたら……」
奈津美は小声で旬に言った。
「あー、ごめんな。あの先輩、彼女いないから僻みっぽくて」
旬は、さっき反省すると言ったことはどうしたのか、笑いながら小声で奈津美に返す。
「そういうことじゃなくて……」
「おい。聞こえてんぞ」
少し離れている距離のはずなのに、大川は目を光らせて旬のことを見ていた。
「あははー」
旬は笑って誤魔化そうと引きつった笑みを浮かべ、さっさと客席の方に向かった。