続・ダメ男依存症候群 ~二人で一つの愛のカタチ~
「ナツ、今日はこの後予定あんの?」
奈津美の方にだけ聞こえるトーンで旬は言った。
「え……? 特にないけど……」
奈津美はただ聞かれたことに対して答える。
「じゃ、一緒に帰ろ。俺、六時に上がりだから」
旬の表情は、にっこりと接客用ではなく、奈津美にとっての極上の笑顔になっていた。
奈津美は、その笑顔に簡単に胸を射抜かれてしまった。
「うん……」
赤くなる顔を隠すように、奈津美は頷いた。
「やった! それじゃ、六時に店の前で待ってて。すぐ行くから」
「うん……わかった」
「じゃ、また後でね」
満面の笑みを浮かべて、旬は仕事に戻っていく背中を、奈津美はじっと見送っていた。
「ラブラブねー」
向かいからカオルの声がして、奈津美ははっと我に返る。
カオルはニヤニヤと笑っていた。
「もう、二人ともあたしの存在なんかすっかり忘れてるし」
からかいながら、カオルはアイスティーをストローで一口飲む。
「まあ、あたしのことは忘れててもいいけどね。周りの状況は忘れないようにね」
「え?」
きょとんとする奈津美に対し、カオルは顎で軽く隣をしゃくった。
奈津美はそれにつられて、特に何も考えずに普通にそっちへ向いてしまった。
「……あ」
向いた瞬間に、奈津美は後悔した。
この状況を忘れてた……
奈津美が向いた先には、女子高生達が、それも、旬にアドレス交換を断られた一人が、鋭い視線を奈津美に向けていた。
そして奈津美と目が合うと、さっと目を逸らし、ヒソヒソと何か話し始めた。
きっとそれは、奈津美に対することに違いない。