続・ダメ男依存症候群 ~二人で一つの愛のカタチ~
「んじゃ、そろそろ帰るな」
「うん……」
優しく奈津美の髪を撫でながら言った旬に、奈津美は今度はちゃんと声に出して頷いた。
「んじゃあな」
旬は笑顔で手を振り、奈津美もそれに応えて手を振った、と思う。
その辺りの記憶は曖昧になっていた。
他のことが気になって、旬の背中を見送っているということしか、今の奈津美には感覚がない。
旬の背中が見えなくなっても奈津美はぼんやりとそこに立ち尽くしていた。
ついムキになって、追い返すようなことを言ってしまったが……
きっと何かあったはずだ。
ああやって、誤魔化された気がする。
いつもなら、奈津美が部屋に来るかと言えば、尻尾を振って(あくまで例えだが)喜ぶはずだ。
それなのに、こっちが嫌がるようなことを言うし、帰れと促すと、割とすぐに引てて、帰ってしまった。
絶対に、おかしい。
奈津美の方からこうなることを言っておいて矛盾しているが、そう思ってしまう。
でも、奈津美には何でも話すような旬が、何も言わないなんて、よっぽどのことがあったのだろうか。
いつも奈津美にべったりとしてくる旬が、一人になりたいと思うほど……
それなら、待とう。
旬が、話してくれるまで。旬が、奈津美を頼りにしてくれるまで。
旬が一人になりたいのなら、そうさせようと思う。
本当は、気になるし、直接聞き出したい。
でも、旬が話さないのなら、聞かない。
年上としての意地とも言うべきか……いや、それよりも、彼女として、旬のことを信用して、待ちたい。
奈津美はふうっと息をつき、コーポの中へと入った。