続・ダメ男依存症候群 ~二人で一つの愛のカタチ~
忍び寄る影(1)
奈津美は慎重に、旬の前髪にはさみを入れていく。
集中しすぎるあまり、自然と息が止まって、旬の顔に近付いてしまう。
「ナツ」
旬がじっと奈津美を見つめる。
「何?」
奈津美は集中したまま返事をする。旬の視線はその動く唇に釘付けだ。
「言っとくけど、はさみ持ってる時にふざけてきたらどうなるか分からないからね」
旬が口を開く前に奈津美はビシッと言った。
「うん……」
旬は大人しく引き下がった。
「これでいいかな……」
奈津美はふうっと息をついた。
「どんな感じ?」
旬はローテーブルに置いてある鏡を覗き込む。
「……あれ? そんなに変わってないかも……」
奈津美は改めて見てみて、切る前とあまり変化のないことに気付いた。
切り過ぎないように切り過ぎないようにと意識して、少しずつ切っていたのだが、思った以上に変化がない。
「ううん。結構違うよ。前より邪魔になってないし」
旬は自分の前髪を上目使いになって見ながら、言った。
「ホント? それならよかったけど……」
「うん。ありがと、ナツ。……でもさ、ナツ、前髪切るのも緊張しすぎ」
旬は鏡を置いてケラケラと笑っている。
「しょうがないでしょ! 失敗したくなかったんだから!」
奈津美はそう言い返しながら片付けをする。
「もー。俺のためにそんな頑張っちゃってー。ナツってばホント俺のこと好きだな」
「そんなんじゃない。失敗して変な前髪になった人と外歩きたくなかっただけ」
冷たく言い放ち、奈津美はガムテープで落ちた髪の毛を取る。
「んなヒドい言い方するー?」
旬は不服そうに口を尖らせた。
「だって、旬も嫌でしょ? 失敗したら」
「ううん。ナツが切ってくれたんならどんなんになってもいいし。多分、自慢して回ると思う」
旬はひょうひょうとして言う。
「……やっぱり失敗しなくてよかった」
独り言のように呟いて、奈津美は旬のTシャツに付いた髪の毛をガムテープでペタペタと取っていった。