続・ダメ男依存症候群 ~二人で一つの愛のカタチ~
奈津美は溜め息を一つついた。
「大丈夫よ。それ、ただの風邪だから」
「えっ……カゼ?」
驚いた様子で言った旬の声は、風邪のせいもあってか裏返っている。
「そう。だから死なないから大丈夫」
『風邪は万病のもと』というぐらいだから、百パーセント大丈夫というわけではないが、旬にそう言うと、大騒ぎしそうな気がするから、黙っておく。
それに、重症そうな中であんなふざけた長文メールを送ってきたり、人を押し倒したりする元気があるくらいなら絶対に大丈夫だ。
「でも……俺、死にそう……」
「口でそう言えるうちは大丈夫なの。でも、本当、熱は高そうね」
奈津美は旬の額に手をあてる。やはりかなり熱く、汗をかいていた。
「旬。体温計は? どこにしまってる?」
「ないよ」
即答だった。
「え!? ないの?」
思わず大声をあげてしまった。
「だって……普段熱測るようなことってないから……」
奈津美は言葉を失った。
本っ当に風邪をひいたり、熱を出したことなんてないらしい。
「てことは、まさか薬もないの?」
「うん」
またしても即答だった。
奈津美は溜め息をついた。
「じゃあ……買い物行かないと……薬とか色々買ってくる」
薬の他にも、体温計や氷枕や冷ピタなど、風邪のお供を買ってくる必要がある。
「え……行っちゃうの?」
旬が不安げな目で奈津美を見た。
「買い物したら戻ってくるから。大人しくしてて」
「……行かないで」
かすれた声で言い、旬は熱い手で奈津美の左の小指を掴んだ。
熱のせいで、目が潤んでいる。
その表情が小さい子供のようで、可愛らしく思ってしまった。