いつか、泣きたくなるほど大好きなキミが



だんだん楽しくなってきて、体が疼く。

つい腕が、ピアノを演奏する様に踊り出す。

少しずつ傾く夕日が、ますます雰囲気を出している。

しかし、そう思うのは、あくまで私だけ。

周りから見れば、私は今、可笑しな子だ。

そうは思っても、止まらない。

数曲を聴いた頃、我が家が遠くに見えてきた。

家に着くまでの、その距離を歩く間も、決して余すことなく聴き続ける。



「あ」



今、耳に流れ出した曲に反応する。

私の幼い頃からのお気に入り「いつか王子様が」

しかし、そんなお気に入りの一曲にも毎回、気に掛かっていることがあった。



「……ここ。やっぱり、物足りない」



何かが、足りていない。

それは一体、何だろう、と悶々と考えている間に、我が家に到着した。

私の家の外観は、深い緑色をしている。

そして、普通の家にしては、少々大きめの両開きの入口の付近に『Sunflower』と看板があるのだ。

そう、私の家は小さなライブハウスを兼ねたジャズ喫茶。

経営者は祖父で、母とアルバイトさんが接客をして成り立っている。

そして、私も父も時々、休日などには手伝ったりもする。

物心ついた頃から、私にはジャズがありふれていた。

祖父の趣味だ。

その影響もあってか、私も見事な程にその虜となっている。

そして、幼い頃、初めて祖父が教えてくれた曲が「いつか王子様が」だった。

喫茶店の入口を兼ねた玄関を開けようとしたとき、横目にポストから郵便物が覗いているのに気が付く。

何気なく取り出してみると、1通の封筒が入っていた。

宛名には『樋廻 澪(ひまわり みお)』としっかりと私の名前と、家の住所が書かれている。

封筒の外側を、いろんな角度からまじまじと見つめるも、それ以上は何も書かれていないようだった。



「ん? 誰からだろう……?」



とりあえず、疑わしい封筒の中身は、自分の部屋で開くことにした。

それを持って、玄関の扉を開く。
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