クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 国王はただ、外国との交渉における切り札になりうる王女に、監視の目をつけていたいだけだ。政務から遠退けるため、王女は王宮とは隔離された離宮に追いやられている。王女のことを想うと、ランベールは憤りを感じてならない。
 市民は、国王が思っているよりもずっと賢い。先々代および先代の賢王が培ってきた国民性だ。それくらいは、国王もわかっているのだろう。
 国王は、市民との交流を楽しみにしている王女を王宮の外に不用意に出ないようにしている。それは、唯一の王位継承者である王女が、賢い市民から影響を受けるのを恐れているからだ。
 国王はいつまでも玉座を譲る気はない。保身のために動いている。そのため、彼女には王位継承権を与えず、他国の王或いは王子のもとへ輿入れさせるつもりなのだ。
 王女も離宮にいることを疑問に思っているようだが、結婚前の大事な時期だとかあれこれ理由をつけられ、今も追いやられたままだ。実に、理不尽な話だ。
 このままでは、いつかこの国は破綻する。或いは、不満を募らせた諸外国に攻め入られ滅びることになるかもしれない。
 ランベールは肌で不穏なざわめきを感じていた。
「来月の……王女殿下のお誕生日には、どのようにされるおつもりでしょうか。例年通り、市民との交流を楽しみにされているようですが」
「余には考えがある。要らぬ心配だ。そなたには引き続き、レティシア王女の護衛を頼もう」
 ……監視せよ。外には出すな。見下ろす視線からは、そういった無言の圧力を感じた。
「御意のままに」
 ランベールは言葉とは裏腹な葛藤を抱えながらも、その場では仕方なく、粛々と頭を垂れるのだった。

▼節タイトル
□第一章 初恋の騎士

▼本文
 グランディアス王国の城は、東西南北の四つの大国……マリブル王国、ヴァレリー王国、ルティ王国、サウザーン王国……と、その他の小さな諸国に囲まれた中央の国として、古より堅固な城壁と渓谷に囲まれた森の中に在った。
 王城の内部には政治や公務の場となる正殿の他に、五つの塔があるのだが、王女レティシアは正殿からもっとも遠いところに位置した離宮と呼ばれる塔に暮らしていた。
 離宮の塔は正殿と同じくらいの高さにありながら、その趣はやや質素で、貴族の迎賓館のような造りをしている。主に使われているのは一階から三階で、レティシアの部屋は三階に位置していた。
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