クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 もちろんそれだけではない。彼のすっと伸びた背中、一歩ずつ踏みしめるような歩き方、振り向いたときの聡明な眼差し、自分だけに向けてくれる微笑み……など。
 好きなところをあげ出したらきりがないので、それは黙っておくことにする。しかしにじみ出るものは隠せないらしく、彼女の頬は薔薇のように色づいていた。
「まぁまぁ。本当にランベール様のことが大好きなのですね。スイーツよりも甘いですこと」
 ピンク色の花柄が描かれた白磁のお皿に、同色のマカロンと真っ赤なベリーのスイーツをサーブしながら、クロエがまた呆れたように笑った。
「大切に思っているわ。私を守ってくれる人だもの」
 それだけではないことは、レティシアだけの秘密だ。
 王女である彼女が騎士であるランベールと恋をすることは叶わない。そのことは彼女が一番よく理解している。ついこの間には、政略結婚の話を聞かされたばかりだが、それでも、想いが消えることはなかった。彼女が四つ年上のランベールに恋をしてから、もう三年目になろうとしていた。
 レティシアは甘いお菓子をつまみながら、初めて彼と出会ったときのことを思い出していた。
 護衛につくという騎士を紹介されたのは、彼女が十五歳の頃だった。
 王立騎士団に入団して四年目の青年だが、またたく間に騎士隊長を務めるほど登りつめた凄腕の騎士なのだという。
 さぞかし豪腕で立派な体格をした方なのだろうと想像していたレティシアは、実際に彼と対面してみて驚いた。
 規定により、騎士は外の活動では黒い軍服に内側が赤地の黒いマントを、王宮内の警護では白い軍服に内側が青地の白いマントを、それぞれ着用することになっているのだが、紹介されたとき、白い軍服を着ていた彼は、まるで公爵か王子のようだった。
 額にさらりとかかる黒髪から覗かせた、二重の双眸、すっと通った鼻梁、引き結ばれた唇……彫像でもそう均整のとれた顔はないかもしれない、とレティシアは思った。
 それに、端正な容姿だけではなく、彼がその場にいるだけで輝くような高貴な雰囲気が漂っていたのだ。
 彼からは、どこにも血の匂いがしない、精悍な気性だとか豪胆さがあまりない。その代わり、凛とした聡明さと内に秘めたまっすぐな情熱が感じとれた。
『どうした。レティシア、挨拶くらいしなさい』
< 5 / 97 >

この作品をシェア

pagetop