あなたの残したタカラモノ〜一粒の雫〜
不思議な出逢い
変わらぬ朝
朝の日差しが、カーテンの隙間からこぼれるように覗き込んでいた。
その外では朝を告げる小鳥達のさえずる声でいっぱいだ。
「…蓮。私もう帰るね」
下着姿に服を身に纏い終わった女が、ベッドに眠る蓮<レン>に言った。
返事を返すこともなく寝たふりを続ける。
やがてその女は玄関を開けて静かに出ていった。
玄関の閉まる音を聞くと、蓮はゆっくりとベッドから立ち上がる。
───神谷 蓮。20才。
幼い頃に両親は離婚。父親についていったが、蓮が小学2年生へ上がった時期に、知らない女と家から出ていった。
孤児院に預けられて、たった独りぽっちの、酷い寂しさの日々。
狭い空間で起こる、イジメの嵐に。
どんな時でも笑顔だった
つねに人を思いやれた
そんな蓮の心は、この苦痛の日々に壊され、乾ききってしまっていた──…‥。