加藤君に話がある高城さん
12

沖縄修学旅行。
1日目。

朝からの移動と平和学習はクラスでまとまって先生の引率で動く。

朝一から、なんだか加藤くんが優しかった。

集合場所で真名と立っていたら、加藤くんと上地くんに声をかけられ、そのまま加藤くんとバスの隣の席に座った。
制服の上着を加藤くんが脱いだら、香水の匂いなのかな、知らない香りがしてドキッとした。私がそう思うって事は、私の方は大丈夫なんだろうかと心配になる。
彼の目に映る自分がどんななのか。
加藤くんは少しかがんで私の顔を見る。
彼が話して私は聞く。私も話して彼が聞いて、お互い笑う。
バスの席。
すぐ隣に制服の長い足。
彼の手が、私よりずっと大きくて手の甲の男の人なかんじや、指や爪や、たまに触れてしまう腕や肩。全部がドキドキしてしまう。
隣に加藤くんがいるんだって意識する。

沖縄についてからも、クラスの他の人がいても、ルミが呼んでも、加藤くんは私の横から離れようとしなかった。
上地くんも真名とずっと話している。
他に誰も合流せず4人の班で動いてた。

平和学習が終わった後、お土産屋さんで解散となり夕方まで自由行動になった。
何となく4人で見ていたが、いつの間にか加藤くんと2人になった。加藤くんは少し年の離れたお姉さんがいるんだっていう話を聞いたり、私は妹がいるよって話をしたり、サトウキビの食品を味見したり、そのうち加藤くんがアクセサリーを見はじめた。私は一緒に見ていたが、すぐ隣にあるキーホルダーに気が付いた。
お父さんとお母さんにも何か買わないと、と思っていたので、パッと目についた物を手に取る。
私の家族はワザと冗談で、お父さんに妙に若々しいものを買うのが流行っている。

「ちょっと待っててね。お土産買うね」

と言って、そのまますぐ横のレジでお父さんに妙に若い感じのキーホルダーを買った。
お揃いをお母さんにペアで買おう。

支払いをしていたら、いつの間にか加藤くんが真横に立っていた。加藤くんは私の買ったキーホルダーのペアを無言で見ている。

品物を受け取り、カバンに入れた。

その後、加藤くんはすごく無口になった。ちょっと不機嫌?あれ?

お土産屋さんを出て、しばらく無言で歩いていたら、加藤くんが携帯を開いて誰かに連絡しはじめた。
なんか冷やっとした気持ちが、切るようによぎる。2人の空間が断ち切られたみたいな、彼の心が閉じたみたいな。
歩いていた彼との間に前から歩いてきた人が入り彼と離されてしまう⋯⋯ 。
次の瞬間、彼が手をのばして私の手首を掴み側に引き寄せた。

「悪い、」

加藤くんはちょっと焦っていた。

「悠太に連絡してた」

それからもう一度画面をみて、返信を確認したみたいだった。

「しばらく2人でまわろ?悠太も相川さんといるって」

携帯の連絡、上地くんだったんだ。
私の気持ちを気にして慌てて相手を説明してくれる。
道を2人で歩く。
手は繋いだままだった。

さすがに、もしかして、という気持ちが全くなかったわけではない。
と言うより、逆に、これってもしかして、と思ってしまっていた。

私だけを見て楽しそうにしている彼が、わざと2人になるようにした人が、携帯相手をちゃんと説明して謝った人が、私と手を繋いでる。2人でまわる。なんか、こんな目にあったこともないし、期待して、現実感がなく、ふわふわと2人だけの空気の中にいて、なのに、圧倒的に現実だった。
ずっと一緒にいたいと思った。
ずっとこの時間が続けばいいのに。

でもあと一歩足りない。はっきりと彼の気持ちを知りたい。そして何より私の傷の事を、いつ?、今、すぐに言わなきゃいけないんじゃないのか⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ 。

「オレのカノジョにならない?」

その口調が、さりげなかったから。
普通に、『これも見てみない?』ってぐらいの感じだったから。
内容を理解するまでに時間がかかって、私はしばらくしてから、

「えっ?⋯⋯ 」

と言った。
直前まで、その期待を考えてた私だった。
傷の事を今言わないといけないと思っていた私だった。
彼がどういうつもりなのか、気持ちを知りたいと思っていた。
同時に、結局答えの出なかった問題が、いよいよ目の前で、その時で、つまり、考えていたのに準備も答えも用意できてなくて、案の定、私は全く返事ができなくなった。

嬉しくて、加藤くんの気持ちが、まさかって。せっかくすぐに彼に答えたい、カノジョになりたいって。でも、まるで騙したみたいに言えていない傷跡が、結局彼に何一つ言えない⋯⋯ 。

私がじっと体を固くして、ただ加藤くんを見ていたから、彼は仕方なくなって、

「なんだ、迷惑だった?」

と苦笑いした。
私はあわてて首を振った。
溢れそうに気持ちが口の方までいっぱいなのに。

それが言葉にならなくて、彼を見たまま上手く何も言えなかった。
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