加藤君に話がある高城さん
2

加藤くんに初めて声をかけられたのは、高2で同じクラスになって1ヶ月ほどたったころ。
体育の授業後に、グラウンドからハードルを運んでいた時だった。
急に手にかかっていたハードルの重みがなくなり驚いて横を見たら、同じクラスの加藤くんが持ってくれていた。

「えっ、あっ、ありがとう」

それまで加藤くんとは全然話した事がなかったし、苦手っぽいって言うか、ちょっと怖い人かなと思っていたぐらいだったから意外だった。
一緒にならんで、用具室まで行く。

「あー、足、変じゃね? 」

と加藤くんが聞いた。

「⋯⋯ 」
「変な歩き方」
「うっ、ごめんなさい」

なぜか謝る。親切にしてくれてるはずなのに、言い方が怖い⋯⋯ 。変な歩き方で気にさせてしまって私が悪かった、みたいなかんじに聞こえた。
私の足首が変なのは理由はよくわかっている。小さい頃交通事故にあって、治ってはいるんだけど、くるぶしの骨が少し削れてしまっているためなんだ。日常生活に支障はないし、現に、違和感に気がついてくれたのは、加藤くんが初めてだった。

「⋯⋯ だから、大丈夫です⋯⋯ 」

と、簡単に説明した。気がついてくれた事は何だかすごく嬉しい。あ、そうか。変でほっとくにほっとけずなら、とっても残念な私か⋯⋯ 。

加藤くんは、遠慮なく私の足をじろじろ見た。
いつも他の人に見られないよう、かなり気を付けてしっかりした厚手の靴下を履いているから、傷はぜんぜん見えない。

「怪我、靴下脱いだらわかるの?」
「わかるよ。骨が少しないから」
「ふーん」

と彼は返事して、もっと近づいて私の足首を眺めて、

「なんか、気になるんだけど。見せて? 」

と言った。私はすごく驚いて、

「いや、だめだよ!無理だよ! 」

と全力で断った。
傷跡は色こそ肌色だけれど、皮膚がひっつれたみたいになっているし、気持ちの良いもんじゃない。私は傷跡を見せても平気って感覚はない。ずっと誰にも見せた事もないし、ましてや、ほとんど知らない男の子にわざわざ見せるようなもんじゃないよ。

「いつになったら見せてくれる? 」
「いやいや、そんな、いつとかじゃなくて、私、誰にもこんなの見せないので⋯⋯ 」
「誰にも? 」
「誰にも! 」
「ふーん、じゃ、俺にだけに見せてよ」
「⋯⋯ 」

加藤くん何言ってるんだか。何で加藤くんにだけに見せるのよ、上手く返す言葉がみつからない。
困っている私を、加藤くんはしばらくじっと見て、

「まぁ、今日はいいよ」

と言って、それから不敵に笑った。
今日はって、じゃぁ、今度はって事?
私はもっと困ってしまった。
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