加藤君に話がある高城さん
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加藤くんはささいな事でも、しょっちゅう気にしてくれる。
日直で積み上がったノートを運んでいる時、机を移動させている時、体育の授業で走っている時、足首に負担がかかりそうになっていると、さりげなくそばに来て手伝ってくれる。

今日は、消防訓練の後、普段は使わない階段をかなり歩かされ移動している時だった。あ、と思うと加藤くんが横に来ていた。加藤くんは、少しかがんで、覗き込んで、

「大丈夫? 」

と聞いた。
長めの前髪がはらりと垂れて、顔が近くて、私が言葉も出ずに慌てて頷いたけど、顔が熱くなっていくのがわかった。
加藤くんは、ニヤッと笑い、

「なに?オレの事、意識してんの? 」

答えられない質問をして、私を焦らせる。

先日も、急にわざと後ろから抱くように荷物を持たれて、その時は流石に私は声を上げて、慌てて逃げてしまった。
その時散らかった荷物を拾うのに手が触れて、加藤くんは、

「何もしてないよ? 」

と私の顔を覗き込んで、ふっと笑った。

「それとも、続きする? 」

続きってなに?!
どう返していいか全然分からなくて加藤くんの顔を見たまま固まってしまった。
息が苦しくって、ドキドキして、顔がカーッとなるのがわかった。
黙って息を詰めたまま、目を逸らした。
こんな空気を微妙にしてしまったのに、加藤くんは、気にしてないみたいに、今日もこうやって話しかけてくれる。

なのに返事がまた出来なくなる私。

加藤くんが話してる子たちなら、上手く返答し会話が弾むんだろうな。
彼ははこんな風に誰にでも接するんだろうか、と思うと、何だか泣きそうになる。

教室に戻ってから加藤くんはいつものグループに合流した。私はすぐ真名と窓際に行った。
加藤くんは友達と今の訓練の話なんかをしている。
一緒にいる人達の中でも特に綺麗な女子が、加藤くんの腕に触れたり、彼の顔を覗き込んだり、変に作ったような声で話している。
彼女は田中ルミ、明るくて派手で物怖じせずはっきり話す。ちょっと自分勝手な感じもするけど、欠点ってほどでもない。
ルミは加藤くんを彼氏にしたがっている。
みんながそれに気がつくぐらいあからさまに、加藤くんの周りにいつもいて、アピールを続けている。

加藤くんも別に気に留めないように、たまにルミの言う事に笑ったりしている。
私に『意識してる?』なーんて、今さっき言ってたのに。
加藤くんに意識しまくりのルミと、そんな雰囲気で話すんだ。

なんか気持ちがずっしりと重くなる。
心がキシッと痛んだ。
なんだろう、彼にとってやっぱり私と話すことは特別でも何でもない。他の女子と同じなんだ、と思い知ったかんじ。

何回もわざわざ手伝ってくれるのも、心配してくれるのも、ましてや、ちょっと思わせぶりってかんじるような話し方をするのも。

私はクラスの用事ぐらいでしか男の子と話をした事がない。
だから距離感とか真意がわからないんだろう。
気にしちゃだめだ、と自分に言い聞かせた。
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