加藤君に話がある高城さん
6

放課後。
今日は真名がたまたまお母さんと用事があり校門から1人で帰っていた。

ふと通学路にある旅行会社の前を通りかかり、修学旅行がもうすぐだな、と立ち止まった。沖縄のポスターが貼ってあった。

私達、高2の学年も行き先は沖縄。
クラス単位で行動するから、加藤くんと一緒に行く沖縄⋯⋯ なんてね。
特別な旅行⋯⋯ 。
沖縄の事をいろいろ考えていたら、後ろから、

「修学旅行、楽しみだね」

と声がした。
ショーウィンドウに映る、背の高い人。
私の頭から離れない人。
いつも私に少しかがんで、話をしてくれる人。

私はまだウィンドウの方を向いてて振り向いてない。
窓に映る加藤くんの姿を見て、彼も同じ窓に映る私を見て目が合う。

私はゆっくり振り返って、本当に横に立っている加藤くんを見上げた。
加藤くんも私を見た。

「今日は相川さんいないの? 」

頷いて、私はまた窓の方にむいてしまった。
どうしていいか分からなかった。

2人で沖縄の旅行案内を見ながら、そのうち、ここ行くらしいね、とか、先輩が言ってたけど、とか、ポツリポツリ話をした。
加藤くんは家族で沖縄に行ったことがあるらしい。私は初めてだ。観光や食べ物の話をして、そのうち隣のポスターの方も見たら、沖縄のビーチとビキニの女の子たちの写真があった。
それを見ながら加藤くんが、

「ビーチか。 高城さんはどんな水着にすんの? 」
「えっ?水着⋯⋯ 全然考えてなかった」

加藤くんはポスターを指差して、

「まさかこんなかんじのビキニとか? 」

と多分冗談を言ったんだと思うけど、こちらを見てにっこり笑った。

「ビキニのわけないよ!学校行事なのに! 」
「高城さんの水着、オレ楽しみだな」

と加藤くんが言った。
私はドキッとした。
水着なんて着れない。私は本当に着れないんだ。

「私、そんな、楽しみにされるような水着、着ないよ! 」
「どうして?俺のためにきてよ」

カッと顔が赤くなった。俺のためって何だっ?って思った。水着は着れないのに⋯⋯ 。

「私はいつでもそんなために着ないって」
「じゃ、いつ着るの? 」

いつだろう。
考えたことなかった⋯⋯ 。
私は着れない、ってずっとそうだったから。それが当たり前で前提で現実だから。

「トクベツな人、そう彼氏とかの前でだったら? 」

と聞かれる。加藤くんはすぐ続けて、

「高城さんて、そういう相手、いんの? 」

とじっと私を見て言った。

そういう相手?
加藤くんの顔をみたら、なんかすごく真面目な顔をしてた。私の頭の中まで見通すような鋭い視線で、その熱量というか、強さと熱さと、こんなに私自身に直接ダイレクトに向けられた気持ちって何だろう?知りたい、分かりたい、息ができないような、時がとまったみたいに。私はどこでどうしてるのかも忘れて、あー、でも、私が思う私にとってトクベツな人って目の前のこの人じゃないかと思いながら、

「彼氏⋯⋯ 」

とつぶやいた。でも加藤くんは私の彼氏じゃない⋯⋯ 曖昧に首を動かしていたら、加藤くんはまだ射抜くように私を見ていて、私も彼の目に吸い込まれるように見て、何もかも忘れて彼に魅入る⋯⋯ 。
私にとってトクベツな人。
私の全部を知っても、水着が切れなくても受け入れてくれる人。
そっか、彼氏とかがそういう人になるのかな⋯⋯ 。

「そうだね、着れるのかもしれない⋯ 」

と小さな声で答えた。
そして、私はその相手を考えた時、隣の加藤くんの顔が思い浮かんでいる。うわっと思ってあわてて自分に否定してたら、

「だったらオレの前で着なよ」

と、加藤くんが怒ったように言った。
< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop