加藤君に話がある高城さん
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《だったら、》って、加藤くんどういうつもりで言ったんだろう。《オレの前で着なよ?》なんて簡単に言ったけど、その前の話の流れ⋯⋯ 確か彼氏の前でしか水着、着ないよ、って話してたと思う。
彼氏の前=俺の前なんて、まさかそのまま受け取って、いやいや、そんなつもりはないし⋯⋯ ってなったら怖い。そんな自意識過剰、もう立ち直れなくなるよ、私。

授業中。

チラッと加藤くんの横顔を盗み見た。
ドキドキした。
ぼんやりした。
気がついたら先生に注意されてるのに返事もしてなかったらしい。クラス中が私を見ていて、先生に怒られた。
恥ずかしくてまた加藤くんを見たら加藤くんも私を見ていて、ふっと口元で笑って、こっそり手で合図してきた。目が合った、と思った瞬間ブワッと体があつくなる。
赤くなって手で頬を覚ましていたら、加藤くんが声を出さずにくつくつ笑った。
なんかたまらなくなった。
最近加藤くんと話すのがたまらない。
男の子っぽいしっかりした輪郭に、驚くほど整った目鼻立ち。スッキリした形良い唇がふっと綻ぶ。

〈あっ⋯⋯ 〉

と思った。

〈私⋯⋯ 加藤くんが好きなんだ⋯⋯ 〉

気持ちが好きと言う言葉にストンとはまったように感じた
心臓がドキドキした。

加藤くんは優しい。
いつもすぐに気が付いて私を気遣ってくれる。クールにちょっと思わせぶりに余裕なかんじで、それがドキドキする。
私だと分かって、わざわざ構いかけてきてくれる。
私の話を聞いて、笑ったり返事してくれる。何気ない彼の表情。私と話すために、私と目を合わすために、加藤くんはかがんでくれる。前髪が溢れるようにさらりと落ちる。
目があったとき、世界に加藤くんしかいないみたいになる
無口だけど、話をちゃんと聞いてくれて、笑って答えてくれる。
彼と2人で話す時間がいつの間にか私の日常の中で1番大事な時間になっている。

加藤くんのカノジョって、とか考え始めていた時にも、もうとっくに意識していたのかもしれない。

加藤くんに《そんな相手いるの?》と聞かれて、加藤くんしか思い浮かべなくて彼だけを見ていた。
気付いた今にも私の思いはあふれてしまいそうだと思った。
授業中なのに、加藤くんと話がしたい。
このまま加藤くんの近くに立って歩いて行って、そばに行きたいと思った。
彼が見ていたい。
彼に私だけを見ていてもらいたい。
ドキドキする。
心が熱くなる。
彼の声だけをみんなの中から拾って、彼の姿を追って⋯⋯ 。

そしてズキンと怖くなる。
彼は私の事、どう思っているんだろう⋯⋯ 。
水着なんて着れない、私のあの事を知ったらどう思うだろう⋯⋯ 。
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