加藤君に話がある高城さん
8

修学旅行まで1ヶ月。
放課後。
真名と廊下を歩いていたら、後ろから追いかけるみたいに加藤くんが来て話しかけてきた。

「高城さん」

話しかけてきて、そのまま横に並んで一緒に歩く。

加藤くんに名前を呼ばれた瞬間、私は全てを忘れて彼だけしか考えられなくなる。
チラッと横を見た。
背の高い加藤くんの顔を見ようと思ったら、結構首を上に向けないといけない。

加藤くんは前を真っ直ぐ向いたまま、言った。

「修学旅行、俺らと班組まない?」
「えっ」

夕日に赤く染まる廊下。
遠くで聞こえる生徒の声。
肌を撫でる夕風。
隣にいる真名の存在。
でも、私の全部は加藤くんの顔や声でいっぱいになって、どんな隙間もないぐらいだった。
加藤くんの言葉が分かるまでに、ちょっとぼーっとして、一緒の班て分かって、あわてて、うんうん、と首を振ってたら、加藤くんが私をみてフッと笑った。

「誘ってくれてありがとう。すごく、すごく嬉しい、真名と?私と?えっと⋯⋯ ?」
「俺と悠太。俺、多人数だと嫌だから、勝手に増やすなよ。」
「4人ね。わかった。うん、4人ぐらいが回りやすいと思う。だね。」

うんうん、と何度も納得してたら、

「じゃぁ、よろしくね、浮気すんなよ」

と笑われて、加藤くんと別れた。
浮気って?!、何言ってるんだか、加藤くん。
彼を見送ったままボンヤリ立ち尽くしていたら、横にいる真名が、

「ちょっと、なにあれ?」

と言った。
うん、なんて返事はできない。
私にもわからないよ。
でも、事実、誘われた。加藤くんに。
一緒の班で沖縄に行く。
他にだって友達がいるのに、なのに、私を誘った。
それが信じられない出来事で嬉しくてドキドキして、少しの期待を持ってしまうような。
もしかして、そうだったらいいのに、と祈るような気持ちがあるけど、だからってそんな肯定する事などはできなかった。それに、

「もう1人は、上地悠太くんだって。」

とわざと呟いてチラッと真名を見たら、真名も私と同じ立場。
真名はずっと上地くんを見ている。
上地君だって真名をどう思っているのか、期待のありそうなことも言えないし、さらりと受け流して何でもないようなフリも出来ないぐらいには真名は上地くんを好きなんだ。
私も真名も期待と、そう思いすぎてはいけないという気持ちで、お互い隣にいるのに、違う人の事で全部がいっぱいになり上の空だった。
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