加藤君に話がある高城さん
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《〜2日目海水浴〜
水着着用、ただし、学校行事のため露出をせず、節度を持った格好をすること。ビキニ、紐なし、などは避ける。》

翌日のホームルームは、修学旅行の説明だった。
担任の先生がプリントを配ると生徒が口々に話し出した。教室が静かにならないまま先生はプリントに沿って説明をはじめた。
特に水着について、『節度を持った格好』という文面のところで大騒ぎになった。
「こんな水着はどうなんですか?」「ホルターは?」「オフショルは?」とか、細かく女子が質問する。
他の日程は宿舎の夜を除いて、すべて制服と体操服での行動となる。
宿舎は男女が別の建物に別れているため、自然と水着のお洒落に集中するようだった。
田中ルミが大きな声でぺらぺらと持論を話しだした。

「ルミたち女子は、水着に命かけなかったら、どこにかけるのよ。好きな人にアピールしたいし〜。」

と加藤くんを見て言う。
心がキュッとした。
なんか、水着でアピールする女子ってそんなの違うと思うし、そんな事で気を惹かれる男子なんて嫌だと思う。どっちも嫌だ。
思わず加藤くん見たけど、彼はルミに話しかけられてもしれっと無視していて、ちょっとほっとした。
男子の中には、そうだね、みたいなかんじの子もいる。
女子の水着を気にしている人は嫌だった。

「もし、クソ地味で着込んでたら、絶対学外に彼氏がいる人に決まってるって〜!彼氏に嫉妬されて禁止されてるんだよ〜」

なんの話だか。いつもルミは勝手な事言ってる。
そんな人ほとんどいないよ。

ルミの声は耳に入ってきてしまうけど、私は聞くのを無理にでも止めた。
そんな事ないって思うのに、心に黒い雲が広がるみたいに気になってしまうから。

節度のある格好って書いてあるし。
学校行事だし。
半日だけだからルミの言うところのクソ地味でも大丈夫だよ、と自分に言い聞かす。派手な格好は各自が勝手に遊びに行った時にすればいい⋯⋯ 。

でも先日加藤くんに、水着楽しみ、とか言われた。
私は着ないってちゃんと言ったけど⋯⋯ なぜ着れないのか、わざわざ説明しなかった。
話した方が良かったかな。
でも、なぜ着れないのか、知られたくない気持ちも強い。
あれから加藤くんと水着の話はしていない。彼がどう思うんだろうか、とか、どうしよう心配だよ⋯⋯。
それでも、こうやってごちゃごちゃ考えたってどうせ私は水着は着れないじゃない⋯⋯ 、と悲しくなった。

あらまし説明が終わると、

「さて」

と先生が言った。

「あとは、旅行中の自由班を決めて提出して下さい」

とたんにクラスはさらに大騒ぎになった。

昨日のうちに加藤くんが誘ってくれて本当によかった。もし決めてなかったら、この大騒ぎに巻き込まれてしまって、とても一緒のグループなど約束出来なかっただろう。今日の事を加藤くんは予測していたのかな、とも思った。

大声で話しかけたり誘おうとする人を避けて、加藤くんは班メンバー提出の紙をチラッと私と真名に見せて、サッサと書き込んで教室の前方の先生に提出しに行った。
なんかじわっと体が熱くなる。
こんなに人がいるのに、彼は私に合図した。
私と約束した。
嬉しくて、特別みたいで、なんとも言えない気持ち。
何だか泣きそうな気持ち。
もう1人のメンバー上地悠太くんを見たら、やはり騒ぎの横で悠々と椅子に座っていて、私と真名の視線を感じたのか、こちらを見てニヤリと笑い小さく手をあげて合図してきた。

上地くんは、男っぽくて、大人っぽくて、やたら世馴れた感じの加藤くんの友達だ。加藤くんと同じぐらい背が高くて何だか妙に余裕があって、クラスの中で年上みたいに見える。
真名はずっと上地くんが気になってる。
好きかどうかと聞かれると、そうだとは言いきれない。まだ形になっていない気持ちみたいだけど、明らかに他の人とは違うと感じている。

つまり私も真名も、特別な気持ちを持ってしまっている男の子と、しかも4人だけで班を組んだ。どうかしているような状態だった。

真名はサバサバしてしっかりしているし少し派手に見えるけど、男の子と付き合った事もないし、慎重で真面目な子だ。

上地くんに合図されて、真っ赤になった。特別に扱われて、また一歩、気持ちを自覚してしまうんだろう。それは私もだ。

数分後、加藤くんの名前が数人から班メンバーとしてあげられる。特にルミが、まるで当然自分と組むような話し方で、

「でさ、他のメンツ、どうするよ?」

と言い出した。自分はもちろん加藤くんと一緒で、後は4人から8人ぐらいの人数で、と言われているので、勝手に仲間を振り分ける。
ルミの態度はモヤモヤする。
プリントをさっさと提出して、戻ってきた加藤くんは、話しかけてきたルミに、すぐ言った。

「あー、俺と悠太は数入れないで」
「えっ?」
「もう班組んで、提出したから」

その後、ルミはしつこかった。もう一度先生から用紙を取り返してくるから変更して、とか、誰がメンバーなんだ、とか。
ずっと納得しないかんじであきらめなくて私は心配になった。
加藤くんは当たり障りなくあしらっていたが、そのうちほとんど返事もせず相手しなくなった。

もしかして、
とふっと考えてしまった。
強引なルミを避けるためだけに、大人しい私達と組もうと思っただけなのかな、って。
多人数苦手だからって言ってたし。
選んだんじゃなくて仕方なくだったら、って思ってしまうと、高揚していた気分がキュッと冷たくなる。
加藤くんの気持ちを想像して一喜一憂してしまう。自分でもどうにもならなかった。
仕方なく、なんて加藤くん全く言ってないし勝手に彼の気持ちを推測して自分で思い込まないようにしなきゃ、と思う。
わざわざ言いにきてくれた加藤くんを信じたいし、私と一緒に過ごしたいと思ってくれてるんだ、と⋯⋯ 。
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