ボーダーライン。Neo【中】

 社会のエンターテイナー達が檜の音楽を必要としているのなら、勿論反対なんか出来ない。

 だからあたしは、足を引っ張るわけにいかない。

 あたしは目を細め、「それに」と言葉をついだ。

「もう、打算的な考えは捨てるの。足手まといになりたくないから」

「え?」

 当然、檜がそんな顔をするのは分かっていた。

 ううん、こっちの話、と言って、笑って誤魔化した。

 以前に諭された美波の説教が、ようやく理解出来たのだ。

 どれだけ彼が欲しくても、檜の人生そのものの、邪魔は出来ない。

「何だよ、意味深だな~。幸子って出会った時からそうだよな」

「何が?」

「……ミステリアス」

 ーーミステリアス??

 あたしは目を丸くした。

「えぇ? そう?? 初めて言われたけど?」

 檜は眉を下げ、はぁ、とため息をついた。

「それが計算じゃないからすげーよな」

 ーー計算って。

「そんな器用に恋愛出来ないよ」

 流石に可笑しくなって、あたしは笑い出した。

 あたしなんて、ミステリアスのかけらも無い。言うならば、自分の本音を全て語れない臆病者だ。
< 155 / 284 >

この作品をシェア

pagetop