ボーダーライン。Neo【中】
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前から思っていた事だけど、檜は本番にめっぽう強い方だと思う。
ステージで歌い切る姿には緊張のキの字も見えない。
檜にとって、歌う事はきっと天性のものなのだろう。
ライブ中、詰め寄せたお客さん達はみな、ステージに夢中だった。
「FAVORITE、なかなか良かったねー?」
「特にボーカルがカッコよかった」
フロアから出る間際、そんな声をちらほらと耳にした。
檜を認められて嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちだった。
「それじゃあ、サチ。あたしはこのまま楽屋に向かうから」
「うん。分かった。先に帰ってるね?」
人混みの廊下で美波に手を振り、出入り口へと流された。
ライブハウスを後にして、程なく歩いた所で立ち止まる。このまま家に帰ってしまうのも何となく名残惜しい、そう思って振り返った。
直接檜の顔を見て、凄く感動した、と今の気持ちを伝えたくなった。
あたしは近くのコンビニで、檜の好きな炭酸飲料を買い、再びライブハウスへ戻った。
出入り口はもう疎らにしか人は居なかったが、そこから入るべきかを考える。